翻訳語成立事情

柳父章(やなぶあきら)著/岩波書店 1982年

明治以降、さまざまな外国語が日本に入ってきた。福沢諭吉や西周など当時の文化人たちは、その語を日本語に置き換えるのに苦労した。なぜなら、その概念が日本になかったり、あったとしても少しずれていたりしたからで、イコールで結ばれる日本語がなかった。だから、それに最も近い日本語を当てることで、間に合わせるしかなかった。すると、本来の外国語とずれたり、誤解が生じたりすることになる。「自然」や「自由」のように古くからある日本語を当ててしまうと、二重の意味を持つようになる。たとえば「liberty」は輝かしい歴史を持つ言葉だが、「自由」と翻訳することで、「勝手気まま、わがまま」といった日本語の「自由」の古来の意味が重なってしまう。そこで、誤解が生じ、「自由のはき違え」などという問題が生まれる。
そのあたりの事情を、具体的な語で説明している。取り上げられている翻訳語は次の通り。

社会 societyを持たない人々の翻訳法
個人 福沢諭吉の苦闘
近代 地獄の「近代」、あこがれの「近代」
美 三島由紀夫のトリック
恋愛 北村透谷と「恋愛」の宿命
存在 存在する、ある、いる
自然 翻訳語の生んだ誤解
権利 権利の「権」、権力の「権」
自由 柳田国男の反発
彼、彼女 物から人へ、恋人へ