「昔話など」カテゴリーアーカイブ

韓国民話の不思議な世界

崔仁鶴(チェ・インハク)・樋口淳編著/鄭裕江(チョン・ユガン)訳/民話の森 2023年

副題:鬼神・トッケビ・妖怪変化

はじめに(抜粋)
 松潭(ソンタン)には1974年までは電気がなく、時計も稀なくらいでしたが、電気がひかれると一挙に村人はラジオやテレビの前に集まるようになり、ハルモニやハラボジの話は、急速に忘れられていきました。闇につつまれた夜が、恐ろしい時間ではなくなり、昼と夜の境が消滅したのです。かつては、夜と昼が人々の意識のなかではっきりと区別されていて、日が落ちるとともに夜が訪れました。夜はオニの時間であり昔語りの時でもあったのです。夜を失って、トッケビや鬼神(キシン)は出現の機会を失ってしまいました。
 そしてセマウル運動(新しい村運動)で道が整備され、車が自由に出入りするようになると、村の境界も消滅します。トッケビや盗賊の話の舞台であった村境の坂や辻もありきたりの場所になってしまいました。
(略)
 かつて村を訪れ、話を運んでくれた竹細工やオンギ(陶器)の行商人も徒歩でやってくることはなく、トラックで商品を運び、用が済むとさっさと引き上げていきます。みな忙しく働いて、昔語りどころではなくなってしまったのです。」
 1970年代に松譚で起きた変化は、多少時期はずれていても、韓国の多くの村で経験されたことです。

目次
はじめに
Ⅰ 鬼神
Ⅱ トッケビ
Ⅲ 蛇・青大将(クロンギ)・龍・イムギ
Ⅳ 狐・白狐・九尾の狐
Ⅴ ムカデ・ヒキガエル・ネズミ・ネコ・ニワトリ
Ⅵ 虎
あとがき

昔話の扉をひらこう

小沢俊夫著/暮しの手帖社 2022年

昔話を学ぶ入門書。というか、一般の人に、昔話に目を向けてもらうための啓蒙書というほうが当たっているかな。

これまで著者が本や講演などあらゆるところで伝えてきたことを、わかりやすくまとめてある。また、小さなお話集の章段では、実際の昔話が載せられていて、誰にでも親しめるようになっている。おまけとして、著者が二人の息子(淳、健二)と「子どもとことば」について語り合う親子鼎談が載っている。

小さなお話集で紹介されている昔話(このまま語れるテキスト)
団子長者・泣き出した閻魔さん・赤んぼうをさらったかっぱ・ぷっつりちゃらん・いのししうちの名人・かっぱの恩返し・帰らん寺・尻ばおさえろう・孝行娘としいの実・ねずみの恩返し・つる女房・たにし長者・ケヤキの大木・三年根太郎・こわがることを習いに出かけた若者の話・灰かぶり・ろばの子

ピリカ チカッポ

知里幸恵と『アイヌ神謡集』

石村博子著/岩波書店 2022年

ピリカチカッポは、「美しい鳥」の意。

知里幸恵というアイヌの少女がいた。1903年北海道に生まれ、祖母からユカラ(叙事詩)などアイヌ文化を伝えられる。アイヌ語学の始祖金田一京助と出会い、才華を見出され、18歳の時東京へ。1922年9月18日、持病の心臓病が悪化して死亡。享年19。(帯より)

明治政府の同化政策の中で言葉も文化も否定された時代に、知里幸恵は、どんな境遇においてもアイヌの魂と誇りは持ち続けるのだとの思いで、神謡集を書き綴った。
その人生についてのノンフィクションです。

登別の知里幸恵銀の滴記念館に行きたくなった。
『アイヌ神謡集』も改めて読んでみよう。違った見方ができるような気がする。
知里幸恵さんは、自分が伝承したそのままの言葉で書き写したわけではない。何度も校訂を重ねているのは、正確な記憶をたどったからではなくて、納得のいくように再話したからではないかと思うが、どうなんだろう?