「民俗」カテゴリーアーカイブ

赤めだか

立川談春 扶桑社 2015年

1984年、17歳で立川談志に入門した談春のエッセイ。
入門からの、談志をはじめ兄弟弟子たちのエピソードを交え、落語家としての足跡が語られる。
江戸落語の世界の慣習なども興味深い。

蛇 不死と再生の民俗

谷川健一著 冨山房インターナショナル 2012年

魔性を持った動物と人間との間の戦慄するような親和力は、いつごろからはじまったか。
それは少なくとも縄文時代中期、考古学でいう勝坂式土器の時代までさかのぼれる、と私はおもう。

という冒頭から、どきどきする。
昔話の異類婚姻譚を思い出すからだ。
人ー蛇ー神と、自在に変化する昔話の登場者に魅力を感じている。
著者谷川は、民俗学を「神と人間と自然との交渉の学である」と定義する。
そして、各地を歩きながら、さまざまなところで出会った物・事・言葉を習合して分析する。

目次
第一章 蛇巫の誕生とゆくえ
蛇巫の誕生/龍の文様の渡来/信州の蛇信仰と九州山地/琉球・朝鮮の三輪山伝説/蛇を祀る/蛇と百足/蛇と雷/毒蛇の神罰/真臘国の蛇王
第二章 蛇と海人の神
和の水人の信仰/死と再生の舞台/蝮の由来/海蛇ー海を照らす神しき光/龍蛇神をめぐる神事/かんなび山の龍蛇信仰/龍蛇の末裔/潜水の方言スム/潜りの海人と海蛇/古代海人と蛇の入墨/蛇の神と地名/ウズー海蛇類の総称/蛇と虹/蛇と不死/口笛と龍神
インタビュー 蛇と龍をめぐる民俗
解説 蛇が神であった世界(川島健二)

清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?

新しい博物学への招待

池内了著/青土社  2021年

2001年発行の『天文学と文学のあいだ』に大幅加筆して再版されたものです。

目次から
天文
第1章すばる
第2章れんず
第3章なんてん
第4章あわ
物理
第5章じしゃく
第6章ぶらんこ
海の生き物
第7章しんじゅ
第8章かつお
第9章ふぐ
陸の生き物
第10章ほたる
第11章たけ
第12章あさがお
第13章ひがんばな

目次に挙げられているものはすべて日本の古代から文学作品に取り上げられているものです。
古代から近代までの文学の造詣の深さに驚かされます。
興味のある章段だけを読んでもよし。

作者は、子ども向けの科学の本や絵本を多く執筆しています。
また、『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか』(みすず書房/2019年)も良書。この筆者の著作だから、どの本も信頼できるという思いになります。

クマにあったらどうするか

姉崎等・片山龍峯/ちくま文庫 2014年

副題:アイヌ民族最後の狩人

12歳から77歳まで、北海道の熊撃ちの猟師として生きてきた姉崎等さんへのインタビューをまとめたもの。
猟師として山を知り生き物を知るのは、実体験によるもの。それがリアルに描かれている。

熊はもともと人を襲うものではない。人里近くの山で、できるだけ人間に出会わないように遠慮深く生きているという。熊の好物は、どんぐりやコクワの実だから、そんなに山奥で暮らしているわけではなく、山菜取りなどする人間の活動範囲と重なっている。熊は、人間を観察しているから、人間が強いことを知っていて、人間に対しては臆病である。

偶然人間に出会ったら、熊は驚いて、鼻を鳴らしたり地面をたたいて人間に「近づくな」と警告する。それでも対面してしまったら、人間はじっと動かず熊の目を見つめなくてはいけない。人間が動かなければ、熊は、「この人は危害を加えないんだな」と思って、逃げ道をさがして立ち去る。
目をそらせば、力が弱いことの証になる。
逃げたら、必ず追いかけてくる。熊は速いから、絶対につかまる。つかまったら、動いてはいけない。熊は動くものにかみつく。

一度人間の味を知った熊は、必ず襲いかかるから、駆除対象になる。

なぜ熊が人と遭遇することが増えたかというと、山林の開発によって山の実りが激減したこと。人間が山に入って食べ物や容器を捨てて帰り、その味を熊が知ったこと。

いまさらSDGsなどというまでもなく、山と熊を知るアイヌの猟師は言う、
「ヒグマの生きている意味=昔から地上に、お前たち生きろと神様から言われて分布して生きているものは、生きていてほしいと思う。・・・人間だけが生きればいいと考えていると、人間も最後にはひどい目にあって死んでしまうと思うんですよ」

アイヌの伝統的な考え方
「アイヌモシッタ ヤクサクペ シネプカ イサムイヌ(この世に無駄なものは一つもない)」

遠景のロシア

中村喜和著/彩流社 1996年

副題が「歴史と民族の旅」

ロシアといっても、現代のロシアという国家についてではなく、もっと広い範囲での民族の歴史が書かれている。

Ⅰ歴史の中の人びとでは、中世を中心に描かれる。だから、都がキーエフのころから、モスクワに移るそのあたりのことになります。
東はモンゴル、南はトルコ、西はポーランドに囲まれてその境界線では常に戦いがあった。
勇者や賢女の活躍が描かれている。

Ⅱ古都めぐりでは、モスクワをはじめ、著者が訪れた都市を人々の様子が書かれている。

Ⅲフォークロアをたずねては、「イワンの馬鹿たち」「ロシアの北風小僧」「妖怪たちの未来」などなど、めっちゃ興味深い小題。

Ⅳ人びとの暮らしでは、日常の木のある暮らしや料理などについて書かれている。

最後にロシア正教会についての説明もあってわかりやすい。