「社会」カテゴリーアーカイブ

老いを愛づる

中村桂子著 中公新書 2022年

著者は大阪府高槻市にある生命誌研究館の名誉館長。
老いや年寄りの生き方についての啓蒙本は多々あるが、今まで読んだ中で一番しっくりきた本。
男性の書いたものは、どうも違和感があるし、お金の心配のない人が老後について具体的なことを書いたものも違和感があるし、奥歯にものが挟まったようなものが多いなかで、本書は、人としての基本的な生き方を考えさせてくれてほっとする。

調べる技術 書く技術

佐東優著/SBクリエイティブ株式会社 2019年

もくじ
第1章情報過多な時代の調べる技術、書く技術
第2章【インプット】情報を「読む力」を高める
第3章【アウトプット】読んだ知識を表現につなげるスキル
第4章調べる技術、書く技術の「インフラ整備」のすすめ

ビジネスマン向けだけれど、ご隠居さんの老化防止によいかも。これまでに持っていた漠然とした知識をここで整理してアウトプットできるようにすれば、生き方が変わるかもしれない。

地下鉄道

コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳 早川書房 2020年

アメリカ合衆国南部に住む黒人奴隷が、奴隷状態から抜け出すために北部へ脱出しようとする。地下鉄道は、そのための手助けをする人たちで作られた組織のこと。ただし、この小説では、たんなる組織ではなく、実際に地下にトンネルを掘って作られた鉄道が出てくる。鉄道を乗り継いで逃げる娘コーラの凄惨な物語。

奴隷の生活のひどさ、差別をする人間の残虐さがこれでもかというほどリアルに描かれる。生き延びようとするコーラの心のありようが、普通の娘の心と少しも変わらないゆえに、より残酷にも感じられるし、同時に希望も感じられる。

これは、かつてのアメリカ合衆国を舞台にしているけれど、現代のことでもあり、世界中どこでも起こってきた、起こりつつあることでもある。

翻訳語成立事情

柳父章(やなぶあきら)著/岩波書店 1982年

明治以降、さまざまな外国語が日本に入ってきた。福沢諭吉や西周など当時の文化人たちは、その語を日本語に置き換えるのに苦労した。なぜなら、その概念が日本になかったり、あったとしても少しずれていたりしたからで、イコールで結ばれる日本語がなかった。だから、それに最も近い日本語を当てることで、間に合わせるしかなかった。すると、本来の外国語とずれたり、誤解が生じたりすることになる。「自然」や「自由」のように古くからある日本語を当ててしまうと、二重の意味を持つようになる。たとえば「liberty」は輝かしい歴史を持つ言葉だが、「自由」と翻訳することで、「勝手気まま、わがまま」といった日本語の「自由」の古来の意味が重なってしまう。そこで、誤解が生じ、「自由のはき違え」などという問題が生まれる。
そのあたりの事情を、具体的な語で説明している。取り上げられている翻訳語は次の通り。

社会 societyを持たない人々の翻訳法
個人 福沢諭吉の苦闘
近代 地獄の「近代」、あこがれの「近代」
美 三島由紀夫のトリック
恋愛 北村透谷と「恋愛」の宿命
存在 存在する、ある、いる
自然 翻訳語の生んだ誤解
権利 権利の「権」、権力の「権」
自由 柳田国男の反発
彼、彼女 物から人へ、恋人へ

平安貴族サバイバル

木村朗子著 笠間書院 2022年

平安時代の貴族の生活、なかでも宮中の生活を解説したもの。
半世紀以上前の学生時代に学んだ内容と、さすがに大きくは変わらないが、現代的な女性の眼で解釈されていて、新鮮に感じた。
筆者は、津田塾大教授。専門は、言語態分析、日本古典文学、日本文化研究。

書名からもわかるるように、目次からも切り口の新しさが分かる。

目次
1,女にしてみたいほどいい男
2,差し向けられたエージェントとしての女性たちー学問で勝つ
3,差し向けられたエージェントとしての女たちー音楽で抜きん出る
4,差し向けられたエージェントとしての女たちー若の力でのし上がる
5,男性の寵愛を奪い合う女たちは恋愛脳か
6,妻・母として以外での女性の自己実現はあったか
7,平安時代にもシスターフッド=女性同士の連帯はあったか
8,同性愛は純愛か異性の代わりか
9,どうしようもないときに頼る呪術や信仰
10,勝ち組の頂点周りの栄光と挫折
11,負け組の不遇と意外なしぶとさ
12,色好みの功績

平安時代の貴族社会を生き抜くためのノウハウは、現代日本社会の、生まれながらの格差社会を生き抜くうえで役に立つのではないかというのが著者の考え。

初学者向けの解説本をあらかた読んでしまった人が次に読む本として企画された本。