月別アーカイブ: 2022年7月

遠景のロシア

中村喜和著/彩流社 1996年

副題が「歴史と民族の旅」

ロシアといっても、現代のロシアという国家についてではなく、もっと広い範囲での民族の歴史が書かれている。

Ⅰ歴史の中の人びとでは、中世を中心に描かれる。だから、都がキーエフのころから、モスクワに移るそのあたりのことになります。
東はモンゴル、南はトルコ、西はポーランドに囲まれてその境界線では常に戦いがあった。
勇者や賢女の活躍が描かれている。

Ⅱ古都めぐりでは、モスクワをはじめ、著者が訪れた都市を人々の様子が書かれている。

Ⅲフォークロアをたずねては、「イワンの馬鹿たち」「ロシアの北風小僧」「妖怪たちの未来」などなど、めっちゃ興味深い小題。

Ⅳ人びとの暮らしでは、日常の木のある暮らしや料理などについて書かれている。

最後にロシア正教会についての説明もあってわかりやすい。

シャーロックホームズ 絹の家

きぬのいえ

アンソニー・ホロヴィッツ作 駒月雅子訳 角川書店 2013年

シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルの子どもたちによって創設されコナン・ドイル財団は、現在もその子孫たちによって運営されていて、ドイルの著作権等の管理を行っている。
この『絹の家』は、ホロヴィッツが財団の認定を受けて書いたもの。いわば、ホームズのシリーズの続編である。
ホームズファンにとっては、ある意味待ちかねた続編。
ホロヴィッツにとって、ドイル作品は、師匠のようなもので、ホームズシリーズを研究し尽くしたうえで書かれている。
原ホームズ物より描写がリアルなのは、当時は説明などいらなかった周辺について、書き込んであるからだろう。
そのせいか、若い頃に読んだホームズよりも、人物がより生き生きと迫ってくる。

『その他の外国文学』の翻訳者

白水社編集部/白水社 2022年

表紙にある翻訳者が、それぞれ、どういうきっかけでその言語の翻訳を手掛けるようになったか、どのような苦労の過程があるかなどが書かれている。
翻訳者おすすめの作品は、ぜひ読んでみたいと思う。

彼女たちの場合は

江國香織著/集英社 2019年

父親の仕事の都合で、一家でニューヨークに暮らす14歳の礼那と、事情があって居候している従姉の17歳の逸佳が、お互いの両親に黙って、旅に出る。「家出ではない」と書置きをして。目的は、アメリカを見ること。
旅先で、様々な人生と出会う。いいことばかりじゃなくて危険な目にも会う。
景色も、二人の心のなかも、描写がうまい。アメリカの?音やにおいも充満していて、一緒に旅をしているような気持になる。
題名の「彼女たち」は、礼那と逸佳のことだろうけれど、礼那の母理生那も含まれるだろう。二人の旅のなかで、理生那も変化する。彼女も、娘たちと同じく精神的に独立していくのだ。
主人公の周囲の人物に対しても思考を促すのが、小説の良いところ。

神なるオオカミ

姜戎(ジャン・ロン)著/唐亜明・関野喜久子訳/講談社 2007年

これは、ほんと、読みごたえがあった。
長い!
が、時間を忘れる!
中国の内モンゴルの遊牧民の話。文化大革命の時代。
主人公は、放下されて内モンゴルにやってきて羊飼いの仕事にたずさわる漢民族の青年。
草原の自然のなかで、遊牧民が、バランスの取れた生き方を何百年も続けてきた、その根底にあるのはオオカミとの共生だと、主人公は考えます。
遊牧民のトーテムはオオカミです。
漢民族は竜・トーテムですが。
主人公は、オオカミに魅せられて自分の中にオオカミの血を発見していきます。
物語は、野生のオオカミの赤んぼう小狼(シャオラン)を育て、別れるまでが、リアルに描かれています。
背後の中国の政策や、人間のエゴも前面に描かれていく。

読んでいると、主人公に共感して、こちらまでオオカミに魅入られてしまいそうでした。