読みたい📚がいっぱい

なんだけどね。
時間ってかぎりがあるでしょ。
体力だっているし。
なのに、前に読んだ本だって気が付かないで、また読んだりするの。
そのたびに得るところはあるからいいんだけどね。
でもできたらたくさん読みたいよ。
本は智慧の泉だからね。
そんなわけで始めた忘備録としての読書日記。

ペッパーズ・ゴースト

伊坂幸太郎著 朝日新聞出版 2021年

ペッパーズ・ゴーストというのは、舞台装置を作る技術で、実像と虚像が同時に舞台に表れる効果。

主人公は30代の中学教師。迷いも悩みもある平凡な人物だが、他人の近未来を垣間見る不思議な能力を持つ。そのことで、他人をすくえたのではないかという悩みを常に持っている。

主人公に女子生徒が自作の小説を見せてくる。軽いサスペンスなのだが、その登場人物が、現実に現れて、窮地に陥った主人公を救い出す。
どこまでが小説なのか、どこからが現実なのか、わからないまま、ストーリーは軽快に進む。

小説内登場人物のロシアンブルとアメショーが、妙に魅力的。

悪童日記

あくどうにっき

アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳 早川書房 1991年

アゴタ・クリストフは1935年ハンガリー生まれ。

小説の舞台「小さな町」はアゴタのふるさとハンガリーの田舎町クーセグ。
第2次世界大戦中、ハンガリーはナチスに占領され、ホロコーストも経験する。ソ連によって解放されるが、そのままソ連の統治下に置かれる。
現在のウクライナもそうだが、東欧の国々は独立国家として存在するために非情な苦しみをなめる。

主人公は、第2次大戦から戦後のそんな時代を生きる双子。父親は兵役にとられ、母親は、双子を「小さな町」の実母のもとに疎開させる。

「ぼくら」と一人称で描かれるため、どんな非道や、醜悪なことや、ショッキングなことも、少年の目で淡々と語られる。
きれいごとではない生き抜く力とは何かを実感させられる。

『ふたりの証拠』1991年、『第三の嘘』1992年との三部作。

   

調べる技術 書く技術

佐東優著/SBクリエイティブ株式会社 2019年

もくじ
第1章情報過多な時代の調べる技術、書く技術
第2章【インプット】情報を「読む力」を高める
第3章【アウトプット】読んだ知識を表現につなげるスキル
第4章調べる技術、書く技術の「インフラ整備」のすすめ

ビジネスマン向けだけれど、ご隠居さんの老化防止によいかも。これまでに持っていた漠然とした知識をここで整理してアウトプットできるようにすれば、生き方が変わるかもしれない。

地下鉄道

コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳 早川書房 2020年

アメリカ合衆国南部に住む黒人奴隷が、奴隷状態から抜け出すために北部へ脱出しようとする。地下鉄道は、そのための手助けをする人たちで作られた組織のこと。ただし、この小説では、たんなる組織ではなく、実際に地下にトンネルを掘って作られた鉄道が出てくる。鉄道を乗り継いで逃げる娘コーラの凄惨な物語。

奴隷の生活のひどさ、差別をする人間の残虐さがこれでもかというほどリアルに描かれる。生き延びようとするコーラの心のありようが、普通の娘の心と少しも変わらないゆえに、より残酷にも感じられるし、同時に希望も感じられる。

これは、かつてのアメリカ合衆国を舞台にしているけれど、現代のことでもあり、世界中どこでも起こってきた、起こりつつあることでもある。

小さなことばたちの辞書

ピップ・ウイリアムズ著 最所篤子訳 小学館 2022年

主人公エズメ・ニコルが6歳のころ、辞書編纂者の父親の足もとで周りの編纂者の仕事を見ているところから物語は始まる。
オックスフォード英語大辞典の編纂に関わった実在の人たちを周りに配し、作者の創作である少女エズメの人生を描いている。
背景には、イギリスの女性参政権獲得の運動と、第一次世界大戦の勃発がある。
エズメは、オックスフォード英語大辞典の編纂の過程をつぶさに見ていて、それが男性のことばを集めたもので、出典は書籍からでなければならないことに、違和感を抱く。
そして、自分なりにことばを集め始める。それは、女性のことばであり、書かれたものではなく話されたことばであり、労働者や底辺に生きる人々のことばだった。

エズメのことば集めと成長を縦糸に、エズメを愛した人やエズメが愛した人との心の交わりと、エズメが愛する人を失っていく悲哀とが、読む者の心を潤す。

ハッピーエンドではないが、ひとりの人間の生涯が歴史の一コマとなりうることに、励まされる。

筆者ピップ・ウイリアムズは、オーストラリア出身の小説家。

藤原彰子

ふじわらのしょうし

服藤早苗/吉川弘文館 2019年

吉川弘文館の人物叢書

中宮定子のサロンの華やかさに比べて、彰子のサロンは地味だという固定観念があった。それはそうかもしれないが、24歳で夫一条天皇を亡くし、29歳で国母となった彰子は、周りの者の協力を得て、政治家としての力を発揮し、87歳の人生を全うした。そのことを本書で初めて知った。感激!

《はしがき》より
平安時代の女性史・ジェンダー研究は、後宮女官や女房も含めて緒についたばかりである。ゆえにこそ、煩雑ではあってもなるべく多くの事象を丁寧にたどることを心がけた。彰子の生涯を描くことで、この時代の宮廷社会、ジェンダー構造もみえてくるはずである。

巻末の左京拡大図・一条院内裏中枢部概念図・平安京内裏図・土御門第想定図といった地図類と、略系図・乳母家司略系図といった系図類、略年譜は大変便利。さすが日本歴史学会の編集だなあ。

 

翻訳語成立事情

柳父章(やなぶあきら)著/岩波書店 1982年

明治以降、さまざまな外国語が日本に入ってきた。福沢諭吉や西周など当時の文化人たちは、その語を日本語に置き換えるのに苦労した。なぜなら、その概念が日本になかったり、あったとしても少しずれていたりしたからで、イコールで結ばれる日本語がなかった。だから、それに最も近い日本語を当てることで、間に合わせるしかなかった。すると、本来の外国語とずれたり、誤解が生じたりすることになる。「自然」や「自由」のように古くからある日本語を当ててしまうと、二重の意味を持つようになる。たとえば「liberty」は輝かしい歴史を持つ言葉だが、「自由」と翻訳することで、「勝手気まま、わがまま」といった日本語の「自由」の古来の意味が重なってしまう。そこで、誤解が生じ、「自由のはき違え」などという問題が生まれる。
そのあたりの事情を、具体的な語で説明している。取り上げられている翻訳語は次の通り。

社会 societyを持たない人々の翻訳法
個人 福沢諭吉の苦闘
近代 地獄の「近代」、あこがれの「近代」
美 三島由紀夫のトリック
恋愛 北村透谷と「恋愛」の宿命
存在 存在する、ある、いる
自然 翻訳語の生んだ誤解
権利 権利の「権」、権力の「権」
自由 柳田国男の反発
彼、彼女 物から人へ、恋人へ