読みたい📚がいっぱい

なんだけどね。
時間ってかぎりがあるでしょ。
体力だっているし。
なのに、前に読んだ本だって気が付かないで、また読んだりするの。
そのたびに得るところはあるからいいんだけどね。
でもできたらたくさん読みたいよ。
本は智慧の泉だからね。
そんなわけで始めた忘備録としての読書日記。

地下鉄道

コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳 早川書房 2020年

アメリカ合衆国南部に住む黒人奴隷が、奴隷状態から抜け出すために北部へ脱出しようとする。地下鉄道は、そのための手助けをする人たちで作られた組織のこと。ただし、この小説では、たんなる組織ではなく、実際に地下にトンネルを掘って作られた鉄道が出てくる。鉄道を乗り継いで逃げる娘コーラの凄惨な物語。

奴隷の生活のひどさ、差別をする人間の残虐さがこれでもかというほどリアルに描かれる。生き延びようとするコーラの心のありようが、普通の娘の心と少しも変わらないゆえに、より残酷にも感じられるし、同時に希望も感じられる。

これは、かつてのアメリカ合衆国を舞台にしているけれど、現代のことでもあり、世界中どこでも起こってきた、起こりつつあることでもある。

小さなことばたちの辞書

ピップ・ウイリアムズ著 最所篤子訳 小学館 2022年

主人公エズメ・ニコルが6歳のころ、辞書編纂者の父親の足もとで周りの編纂者の仕事を見ているところから物語は始まる。
オックスフォード英語大辞典の編纂に関わった実在の人たちを周りに配し、作者の創作である少女エズメの人生を描いている。
背景には、イギリスの女性参政権獲得の運動と、第一次世界大戦の勃発がある。
エズメは、オックスフォード英語大辞典の編纂の過程をつぶさに見ていて、それが男性のことばを集めたもので、出典は書籍からでなければならないことに、違和感を抱く。
そして、自分なりにことばを集め始める。それは、女性のことばであり、書かれたものではなく話されたことばであり、労働者や底辺に生きる人々のことばだった。

エズメのことば集めと成長を縦糸に、エズメを愛した人やエズメが愛した人との心の交わりと、エズメが愛する人を失っていく悲哀とが、読む者の心を潤す。

ハッピーエンドではないが、ひとりの人間の生涯が歴史の一コマとなりうることに、励まされる。

筆者ピップ・ウイリアムズは、オーストラリア出身の小説家。

藤原彰子

ふじわらのしょうし

服藤早苗/吉川弘文館 2019年

吉川弘文館の人物叢書

中宮定子のサロンの華やかさに比べて、彰子のサロンは地味だという固定観念があった。それはそうかもしれないが、24歳で夫一条天皇を亡くし、29歳で国母となった彰子は、周りの者の協力を得て、政治家としての力を発揮し、87歳の人生を全うした。そのことを本書で初めて知った。感激!

《はしがき》より
平安時代の女性史・ジェンダー研究は、後宮女官や女房も含めて緒についたばかりである。ゆえにこそ、煩雑ではあってもなるべく多くの事象を丁寧にたどることを心がけた。彰子の生涯を描くことで、この時代の宮廷社会、ジェンダー構造もみえてくるはずである。

巻末の左京拡大図・一条院内裏中枢部概念図・平安京内裏図・土御門第想定図といった地図類と、略系図・乳母家司略系図といった系図類、略年譜は大変便利。さすが日本歴史学会の編集だなあ。

 

翻訳語成立事情

柳父章(やなぶあきら)著/岩波書店 1982年

明治以降、さまざまな外国語が日本に入ってきた。福沢諭吉や西周など当時の文化人たちは、その語を日本語に置き換えるのに苦労した。なぜなら、その概念が日本になかったり、あったとしても少しずれていたりしたからで、イコールで結ばれる日本語がなかった。だから、それに最も近い日本語を当てることで、間に合わせるしかなかった。すると、本来の外国語とずれたり、誤解が生じたりすることになる。「自然」や「自由」のように古くからある日本語を当ててしまうと、二重の意味を持つようになる。たとえば「liberty」は輝かしい歴史を持つ言葉だが、「自由」と翻訳することで、「勝手気まま、わがまま」といった日本語の「自由」の古来の意味が重なってしまう。そこで、誤解が生じ、「自由のはき違え」などという問題が生まれる。
そのあたりの事情を、具体的な語で説明している。取り上げられている翻訳語は次の通り。

社会 societyを持たない人々の翻訳法
個人 福沢諭吉の苦闘
近代 地獄の「近代」、あこがれの「近代」
美 三島由紀夫のトリック
恋愛 北村透谷と「恋愛」の宿命
存在 存在する、ある、いる
自然 翻訳語の生んだ誤解
権利 権利の「権」、権力の「権」
自由 柳田国男の反発
彼、彼女 物から人へ、恋人へ

平安貴族サバイバル

木村朗子著 笠間書院 2022年

平安時代の貴族の生活、なかでも宮中の生活を解説したもの。
半世紀以上前の学生時代に学んだ内容と、さすがに大きくは変わらないが、現代的な女性の眼で解釈されていて、新鮮に感じた。
筆者は、津田塾大教授。専門は、言語態分析、日本古典文学、日本文化研究。

書名からもわかるるように、目次からも切り口の新しさが分かる。

目次
1,女にしてみたいほどいい男
2,差し向けられたエージェントとしての女性たちー学問で勝つ
3,差し向けられたエージェントとしての女たちー音楽で抜きん出る
4,差し向けられたエージェントとしての女たちー若の力でのし上がる
5,男性の寵愛を奪い合う女たちは恋愛脳か
6,妻・母として以外での女性の自己実現はあったか
7,平安時代にもシスターフッド=女性同士の連帯はあったか
8,同性愛は純愛か異性の代わりか
9,どうしようもないときに頼る呪術や信仰
10,勝ち組の頂点周りの栄光と挫折
11,負け組の不遇と意外なしぶとさ
12,色好みの功績

平安時代の貴族社会を生き抜くためのノウハウは、現代日本社会の、生まれながらの格差社会を生き抜くうえで役に立つのではないかというのが著者の考え。

初学者向けの解説本をあらかた読んでしまった人が次に読む本として企画された本。


殺しへのライン

アンソニー・ホロヴィッツ著 山田蘭訳 東京創元社(創元推理文庫)

〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ第3作。
3作目に至ってもホーソーンは謎の人物である。ホロヴィッツのホーソーンへの不信感のせいで、読者までもホーソーンへの好意を抱きにくい。ただ、1作目から2作目へと、少しずつ彼の謎のヒントが見せられる。3作目でも、ラストでそれがあるので、4作目が待ち遠しくなる。作者はうまい!ストーリー本来の謎解きとホーソーンという人物の謎解きがからむので、シリーズとしてのおもしろさがある。

本作は、事件が起こるのは半分以上読んでから。それまでは、島に招待されてやってきた個性ある人物たちの小さな謎が語られていく。読み進めながら、いつどこでどんな事件が起こるのかを推理するのがおもしろい。そして、その推理も、犯人当ても、みごとにひっくり返される!

泣き虫ハァちゃん

河合隼雄 新潮社 2007年

臨床心理学者河合隼雄の最後の著作です。
河合隼雄(1928-2007)は、丹波の篠山に生まれ育ちます。男ばかり6人兄弟の5番目です。
この本は、自伝ではなくてフィクションですが、下地にあるのは、自身の幼いころの思い出のようです。

ハァちゃんは、泣き虫で、戦時下の日本では男が泣くことは恥でした。泣き虫といってもいじめられたり叱られたからなくというだけでなく、感動したり、人との別れであったり、何かの拍子に心が締め付けられたりすると、勝手に涙があふれてくるのです。負け惜しみが強いくせに、涙が出るのです。
あるとき、母親が「ほんまにかなしいときは、男の子も泣いてもええんよ」といってくれて、ハァチャンはびっくりします。

幼稚園から小学4年生までの日々がつづられています。本当は、まだ続くはずだったのですが、急な病で倒れてしまいました。いつまでも読んでいたいようなやさしくユーモアにあふれたハァチャンの日々でした。
そして、読んでいて全然悲しくないのに、微笑みながら涙が出てくる本でした。

物語の後に、谷川俊太郎さんの、作者にささげる詩が載っています。
「来てくれる」という詩です。
これを読んでまた泣きました。
奥さまの河合嘉代子さんの跋文「『泣き虫ハァちゃん』のこと」もあります。

目次
男の子も、泣いてもええんよ
どんぐりころころ
青山の周ちゃん
みそしるサンタ
怪傑黒頭巾
川へ行こう
クライバーさん
秘密基地
あづまはや
作文はお得意
かもめの水兵さん
夜が怖い