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ネガティブ・ケイパビリティ

副題:答えの出ない事態に耐える力

帚木蓬生著/朝日新聞出版/2017年

著者は小説家であり、精神科の臨床医。

筆者によると、ネガティブ・ケイパビリティとは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」、あるいは、「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」のこと。

第一章 キーツの「ネガティブ・ケイパビリティ」への旅
第二章 精神科医ビオンの再発見
第三章 分かりたがる脳 セラピー犬、心くんの「分かる」仕組み マニュアルに慣れた脳とは? 分かりたがる脳は、音楽と絵画にとまどう ほか
第四章 ネガティブ・ケイパビリティと医療
第五章 身の上相談とネガティブ・ケイパビリティ
第六章 希望する脳と伝統治療師 明るい未来を希望する能力 楽観的希望の医学的効用 山下清を育んだもの 疼痛におけるピラセボ効果 ほか
第七章 創造行為とネガティブ・ケイパビリティ
第八章 シェイクスピアと紫式部
第九章 教育とネガティブ・ケイパビリティ 現代教育が養成するポジティブ・ケイパビリティ 学習速度の差は自然 解決できない問題に向かうために ほか
第十章 寛容とネガティブ・ケイパビリティ 現代のユマニスト・メルケル首相 不寛容のトランプ大統領 戦死者の言葉『きけわだつみのこえ』 為政者に欠けたネガティブ・ケイパビリティ
おわりに・・・再び共感について 共感の成熟に寄り添うネガティブ・ケイパビリティ 

難しい概念です。
けれども、追い詰められたものの身になれば、涙が出るほどうれしい、すくわれた思いになります。

清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?

新しい博物学への招待

池内了著/青土社  2021年

2001年発行の『天文学と文学のあいだ』に大幅加筆して再版されたものです。

目次から
天文
第1章すばる
第2章れんず
第3章なんてん
第4章あわ
物理
第5章じしゃく
第6章ぶらんこ
海の生き物
第7章しんじゅ
第8章かつお
第9章ふぐ
陸の生き物
第10章ほたる
第11章たけ
第12章あさがお
第13章ひがんばな

目次に挙げられているものはすべて日本の古代から文学作品に取り上げられているものです。
古代から近代までの文学の造詣の深さに驚かされます。
興味のある章段だけを読んでもよし。

作者は、子ども向けの科学の本や絵本を多く執筆しています。
また、『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか』(みすず書房/2019年)も良書。この筆者の著作だから、どの本も信頼できるという思いになります。

クマにあったらどうするか

姉崎等・片山龍峯/ちくま文庫 2014年

副題:アイヌ民族最後の狩人

12歳から77歳まで、北海道の熊撃ちの猟師として生きてきた姉崎等さんへのインタビューをまとめたもの。
猟師として山を知り生き物を知るのは、実体験によるもの。それがリアルに描かれている。

熊はもともと人を襲うものではない。人里近くの山で、できるだけ人間に出会わないように遠慮深く生きているという。熊の好物は、どんぐりやコクワの実だから、そんなに山奥で暮らしているわけではなく、山菜取りなどする人間の活動範囲と重なっている。熊は、人間を観察しているから、人間が強いことを知っていて、人間に対しては臆病である。

偶然人間に出会ったら、熊は驚いて、鼻を鳴らしたり地面をたたいて人間に「近づくな」と警告する。それでも対面してしまったら、人間はじっと動かず熊の目を見つめなくてはいけない。人間が動かなければ、熊は、「この人は危害を加えないんだな」と思って、逃げ道をさがして立ち去る。
目をそらせば、力が弱いことの証になる。
逃げたら、必ず追いかけてくる。熊は速いから、絶対につかまる。つかまったら、動いてはいけない。熊は動くものにかみつく。

一度人間の味を知った熊は、必ず襲いかかるから、駆除対象になる。

なぜ熊が人と遭遇することが増えたかというと、山林の開発によって山の実りが激減したこと。人間が山に入って食べ物や容器を捨てて帰り、その味を熊が知ったこと。

いまさらSDGsなどというまでもなく、山と熊を知るアイヌの猟師は言う、
「ヒグマの生きている意味=昔から地上に、お前たち生きろと神様から言われて分布して生きているものは、生きていてほしいと思う。・・・人間だけが生きればいいと考えていると、人間も最後にはひどい目にあって死んでしまうと思うんですよ」

アイヌの伝統的な考え方
「アイヌモシッタ ヤクサクペ シネプカ イサムイヌ(この世に無駄なものは一つもない)」