「古典文学のまわり」カテゴリーアーカイブ

赤めだか

立川談春 扶桑社 2015年

1984年、17歳で立川談志に入門した談春のエッセイ。
入門からの、談志をはじめ兄弟弟子たちのエピソードを交え、落語家としての足跡が語られる。
江戸落語の世界の慣習なども興味深い。

口訳古事記

町田康 著/講談社 2023年

古事記の現代語訳なんだけど、神さまたちが現代の関西弁で丁々発止やりあうのが、なんとも愉快。講談、というより、ほぼ落語。たしかに古事記ってナンセンスだし、笑えるよなあと思わせる。
たとえば、こう。

海幸山幸の一場面

父の神が事情を問うたところ、火遠理命は、「実は・・・・・」と兄の神の大事な釣り鉤を失くしてしまったことを打ち明けた。
「なるほど。でも、それ、なんとかなるかも」
「マジすか」
「マジです。ちょっとお時間頂戴できますか」
そういうと父の神は、海に向かって、
「みんな、ちょっといいかな。ちょっと集まってくれるかな」といった。

ホムチワケノミコがこっそりヒナガヒメの寝屋をのぞいたら、ヒメが蛇だった場面

「あかん」
思わず呟いたホムチワケノミコに側近は問うた。
「なにがあきまへんね」
「ちょっと長いどころやあらへん。蛇や」
「マジですか」
「嘘やおもたら、おまえも見てみいな」
「ほな、ちょっと、うわあああっ、蛇ですやん」
「大きな、声出すな」
「あかん、今、まともに目ぇ合いましたわ」
「そやさかい大きな声、出すな、ちゅってんね」
「どないしまお」
「逃げよ」

こんなに気楽に楽しめる古事記は初めて!

藤原彰子

ふじわらのしょうし

服藤早苗/吉川弘文館 2019年

吉川弘文館の人物叢書

中宮定子のサロンの華やかさに比べて、彰子のサロンは地味だという固定観念があった。それはそうかもしれないが、24歳で夫一条天皇を亡くし、29歳で国母となった彰子は、周りの者の協力を得て、政治家としての力を発揮し、87歳の人生を全うした。そのことを本書で初めて知った。感激!

《はしがき》より
平安時代の女性史・ジェンダー研究は、後宮女官や女房も含めて緒についたばかりである。ゆえにこそ、煩雑ではあってもなるべく多くの事象を丁寧にたどることを心がけた。彰子の生涯を描くことで、この時代の宮廷社会、ジェンダー構造もみえてくるはずである。

巻末の左京拡大図・一条院内裏中枢部概念図・平安京内裏図・土御門第想定図といった地図類と、略系図・乳母家司略系図といった系図類、略年譜は大変便利。さすが日本歴史学会の編集だなあ。

 

平安貴族サバイバル

木村朗子著 笠間書院 2022年

平安時代の貴族の生活、なかでも宮中の生活を解説したもの。
半世紀以上前の学生時代に学んだ内容と、さすがに大きくは変わらないが、現代的な女性の眼で解釈されていて、新鮮に感じた。
筆者は、津田塾大教授。専門は、言語態分析、日本古典文学、日本文化研究。

書名からもわかるるように、目次からも切り口の新しさが分かる。

目次
1,女にしてみたいほどいい男
2,差し向けられたエージェントとしての女性たちー学問で勝つ
3,差し向けられたエージェントとしての女たちー音楽で抜きん出る
4,差し向けられたエージェントとしての女たちー若の力でのし上がる
5,男性の寵愛を奪い合う女たちは恋愛脳か
6,妻・母として以外での女性の自己実現はあったか
7,平安時代にもシスターフッド=女性同士の連帯はあったか
8,同性愛は純愛か異性の代わりか
9,どうしようもないときに頼る呪術や信仰
10,勝ち組の頂点周りの栄光と挫折
11,負け組の不遇と意外なしぶとさ
12,色好みの功績

平安時代の貴族社会を生き抜くためのノウハウは、現代日本社会の、生まれながらの格差社会を生き抜くうえで役に立つのではないかというのが著者の考え。

初学者向けの解説本をあらかた読んでしまった人が次に読む本として企画された本。