小さなことばたちの辞書

ピップ・ウイリアムズ著 最所篤子訳 小学館 2022年

主人公エズメ・ニコルが6歳のころ、辞書編纂者の父親の足もとで周りの編纂者の仕事を見ているところから物語は始まる。
オックスフォード英語大辞典の編纂に関わった実在の人たちを周りに配し、作者の創作である少女エズメの人生を描いている。
背景には、イギリスの女性参政権獲得の運動と、第一次世界大戦の勃発がある。
エズメは、オックスフォード英語大辞典の編纂の過程をつぶさに見ていて、それが男性のことばを集めたもので、出典は書籍からでなければならないことに、違和感を抱く。
そして、自分なりにことばを集め始める。それは、女性のことばであり、書かれたものではなく話されたことばであり、労働者や底辺に生きる人々のことばだった。

エズメのことば集めと成長を縦糸に、エズメを愛した人やエズメが愛した人との心の交わりと、エズメが愛する人を失っていく悲哀とが、読む者の心を潤す。

ハッピーエンドではないが、ひとりの人間の生涯が歴史の一コマとなりうることに、励まされる。

筆者ピップ・ウイリアムズは、オーストラリア出身の小説家。