クマにあったらどうするか

姉崎等・片山龍峯/ちくま文庫 2014年

副題:アイヌ民族最後の狩人

12歳から77歳まで、北海道の熊撃ちの猟師として生きてきた姉崎等さんへのインタビューをまとめたもの。
猟師として山を知り生き物を知るのは、実体験によるもの。それがリアルに描かれている。

熊はもともと人を襲うものではない。人里近くの山で、できるだけ人間に出会わないように遠慮深く生きているという。熊の好物は、どんぐりやコクワの実だから、そんなに山奥で暮らしているわけではなく、山菜取りなどする人間の活動範囲と重なっている。熊は、人間を観察しているから、人間が強いことを知っていて、人間に対しては臆病である。

偶然人間に出会ったら、熊は驚いて、鼻を鳴らしたり地面をたたいて人間に「近づくな」と警告する。それでも対面してしまったら、人間はじっと動かず熊の目を見つめなくてはいけない。人間が動かなければ、熊は、「この人は危害を加えないんだな」と思って、逃げ道をさがして立ち去る。
目をそらせば、力が弱いことの証になる。
逃げたら、必ず追いかけてくる。熊は速いから、絶対につかまる。つかまったら、動いてはいけない。熊は動くものにかみつく。

一度人間の味を知った熊は、必ず襲いかかるから、駆除対象になる。

なぜ熊が人と遭遇することが増えたかというと、山林の開発によって山の実りが激減したこと。人間が山に入って食べ物や容器を捨てて帰り、その味を熊が知ったこと。

いまさらSDGsなどというまでもなく、山と熊を知るアイヌの猟師は言う、
「ヒグマの生きている意味=昔から地上に、お前たち生きろと神様から言われて分布して生きているものは、生きていてほしいと思う。・・・人間だけが生きればいいと考えていると、人間も最後にはひどい目にあって死んでしまうと思うんですよ」

アイヌの伝統的な考え方
「アイヌモシッタ ヤクサクペ シネプカ イサムイヌ(この世に無駄なものは一つもない)」

遠景のロシア

中村喜和著/彩流社 1996年

副題が「歴史と民族の旅」

ロシアといっても、現代のロシアという国家についてではなく、もっと広い範囲での民族の歴史が書かれている。

Ⅰ歴史の中の人びとでは、中世を中心に描かれる。だから、都がキーエフのころから、モスクワに移るそのあたりのことになります。
東はモンゴル、南はトルコ、西はポーランドに囲まれてその境界線では常に戦いがあった。
勇者や賢女の活躍が描かれている。

Ⅱ古都めぐりでは、モスクワをはじめ、著者が訪れた都市を人々の様子が書かれている。

Ⅲフォークロアをたずねては、「イワンの馬鹿たち」「ロシアの北風小僧」「妖怪たちの未来」などなど、めっちゃ興味深い小題。

Ⅳ人びとの暮らしでは、日常の木のある暮らしや料理などについて書かれている。

最後にロシア正教会についての説明もあってわかりやすい。

シャーロックホームズ 絹の家

きぬのいえ

アンソニー・ホロヴィッツ作 駒月雅子訳 角川書店 2013年

シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルの子どもたちによって創設されコナン・ドイル財団は、現在もその子孫たちによって運営されていて、ドイルの著作権等の管理を行っている。
この『絹の家』は、ホロヴィッツが財団の認定を受けて書いたもの。いわば、ホームズのシリーズの続編である。
ホームズファンにとっては、ある意味待ちかねた続編。
ホロヴィッツにとって、ドイル作品は、師匠のようなもので、ホームズシリーズを研究し尽くしたうえで書かれている。
原ホームズ物より描写がリアルなのは、当時は説明などいらなかった周辺について、書き込んであるからだろう。
そのせいか、若い頃に読んだホームズよりも、人物がより生き生きと迫ってくる。

『その他の外国文学』の翻訳者

白水社編集部/白水社 2022年

表紙にある翻訳者が、それぞれ、どういうきっかけでその言語の翻訳を手掛けるようになったか、どのような苦労の過程があるかなどが書かれている。
翻訳者おすすめの作品は、ぜひ読んでみたいと思う。

彼女たちの場合は

江國香織著/集英社 2019年

父親の仕事の都合で、一家でニューヨークに暮らす14歳の礼那と、事情があって居候している従姉の17歳の逸佳が、お互いの両親に黙って、旅に出る。「家出ではない」と書置きをして。目的は、アメリカを見ること。
旅先で、様々な人生と出会う。いいことばかりじゃなくて危険な目にも会う。
景色も、二人の心のなかも、描写がうまい。アメリカの?音やにおいも充満していて、一緒に旅をしているような気持になる。
題名の「彼女たち」は、礼那と逸佳のことだろうけれど、礼那の母理生那も含まれるだろう。二人の旅のなかで、理生那も変化する。彼女も、娘たちと同じく精神的に独立していくのだ。
主人公の周囲の人物に対しても思考を促すのが、小説の良いところ。

神なるオオカミ

姜戎(ジャン・ロン)著/唐亜明・関野喜久子訳/講談社 2007年

これは、ほんと、読みごたえがあった。
長い!
が、時間を忘れる!
中国の内モンゴルの遊牧民の話。文化大革命の時代。
主人公は、放下されて内モンゴルにやってきて羊飼いの仕事にたずさわる漢民族の青年。
草原の自然のなかで、遊牧民が、バランスの取れた生き方を何百年も続けてきた、その根底にあるのはオオカミとの共生だと、主人公は考えます。
遊牧民のトーテムはオオカミです。
漢民族は竜・トーテムですが。
主人公は、オオカミに魅せられて自分の中にオオカミの血を発見していきます。
物語は、野生のオオカミの赤んぼう小狼(シャオラン)を育て、別れるまでが、リアルに描かれています。
背後の中国の政策や、人間のエゴも前面に描かれていく。

読んでいると、主人公に共感して、こちらまでオオカミに魅入られてしまいそうでした。

読みたい📚がいっぱい

なんだけどね。
時間ってかぎりがあるでしょ。
体力だっているし。
なのに、前に読んだ本だって気が付かないで、また読んだりするの。
そのたびに得るところはあるからいいんだけどね。
でもできたらたくさん読みたいよ。
本は智慧の泉だからね。
そんなわけで始めた忘備録としての読書日記。

昔話の扉をひらこう

小沢俊夫著/暮しの手帖社 2022年

昔話を学ぶ入門書。というか、一般の人に、昔話に目を向けてもらうための啓蒙書というほうが当たっているかな。

これまで著者が本や講演などあらゆるところで伝えてきたことを、わかりやすくまとめてある。また、小さなお話集の章段では、実際の昔話が載せられていて、誰にでも親しめるようになっている。おまけとして、著者が二人の息子(淳、健二)と「子どもとことば」について語り合う親子鼎談が載っている。

小さなお話集で紹介されている昔話(このまま語れるテキスト)
団子長者・泣き出した閻魔さん・赤んぼうをさらったかっぱ・ぷっつりちゃらん・いのししうちの名人・かっぱの恩返し・帰らん寺・尻ばおさえろう・孝行娘としいの実・ねずみの恩返し・つる女房・たにし長者・ケヤキの大木・三年根太郎・こわがることを習いに出かけた若者の話・灰かぶり・ろばの子

ピリカ チカッポ

知里幸恵と『アイヌ神謡集』

石村博子著/岩波書店 2022年

ピリカチカッポは、「美しい鳥」の意。

知里幸恵というアイヌの少女がいた。1903年北海道に生まれ、祖母からユカラ(叙事詩)などアイヌ文化を伝えられる。アイヌ語学の始祖金田一京助と出会い、才華を見出され、18歳の時東京へ。1922年9月18日、持病の心臓病が悪化して死亡。享年19。(帯より)

明治政府の同化政策の中で言葉も文化も否定された時代に、知里幸恵は、どんな境遇においてもアイヌの魂と誇りは持ち続けるのだとの思いで、神謡集を書き綴った。
その人生についてのノンフィクションです。

登別の知里幸恵銀の滴記念館に行きたくなった。
『アイヌ神謡集』も改めて読んでみよう。違った見方ができるような気がする。
知里幸恵さんは、自分が伝承したそのままの言葉で書き写したわけではない。何度も校訂を重ねているのは、正確な記憶をたどったからではなくて、納得のいくように再話したからではないかと思うが、どうなんだろう?