絲山秋子 文藝春秋 2023年
黒蟹県は、架空の県名。どこにでもありそうで、どこにもないふしぎの起こりそうな場所。
地図までついている。
主人公は三ケ日凡(なみ)。かと思いきや、次々に現れる平凡な人物が主人公か?
神はどこにいるのか?
おかしな物語。
絲山秋子 文藝春秋 2023年
黒蟹県は、架空の県名。どこにでもありそうで、どこにもないふしぎの起こりそうな場所。
地図までついている。
主人公は三ケ日凡(なみ)。かと思いきや、次々に現れる平凡な人物が主人公か?
神はどこにいるのか?
おかしな物語。
鈴木光司著 小学館 2015年
和歌山県串本の沖合で、トルコの軍艦エルトゥールル号が、台風にあって沈没したのは、明治23年のこと。その史実をもとにしたフィクション。
主人公は、串本でダイビングのインストラクターをする水輝。そこへ、トルコの青年ギュスカンがガイドを依頼する。
エルトゥールル号の遭難者の五代のちの子孫と遭難を助けた漁師たちの五代のちの子孫とのふしぎな邂逅。
エルトゥールル号乗組員のドラマと水輝の人生が、交互に描かれる。
パット・バーカー作 北村みちよ訳 早川書房 2023年
ギリシャの英雄アキレウスといえば、アキレス腱の名前のもとになった神話の世界の登場人物。
トロイア戦争を舞台に、リュルネソスの王妃ブリセイスが数奇な運命を語る。
アキレウスによって国が陥落し、ブリセイスはアキレウスの勝利品として奴隷に落とされる。
戦闘の場面はリアルで血なまぐさい。けれども、そのことで、生死のドラマを盛り上げている。
沈黙を強いられた女たちの想いと生きる力を訴える。
続編 The Women of Troy の翻訳が待たれる。
有吉佐和子 1959年 中央公論社 (1964年 新潮社)
和歌山県の紀ノ川沿いの素封家紀本家の花子が主人公。彼女を育てた祖母豊乃、娘の文緒、孫の華子と、明治大正昭和を生きる4代の女たちの物語。
さすがにテーマはかっちりしているし、視野が広いし、何より文章が良い。
有吉佐和子は学生時代にけっこうのめりこんで読んだのが懐かしい。
文庫版の後ろの広告に円地文子、大江健三郎、高橋和巳等の作品が並んでいて、そういう文学に親しんでいた学生時代だったと思いだした。
東野圭吾 実業之日本社 2020年
大きな洞のあるクスノキは、月の決まったころに祈念すると、その人の念を受け取って預かってくれ、血縁の人が受念することができる。遺言書といった形式では伝わらないもの、魂を受け渡すことのできる不思議なパワースポットだ。
孤独な青年の成長の物語りでもある。
伊坂幸太郎 祥伝社 2006年
嘘を見抜く名人、演説の達人、すりの名人、正確な体内時計の持ち主。この四人が組んで銀行強盗をやる。百発百中で失敗はない。
劇画のようなおもしろさ。スリルもあるし、笑いも上等。
あくどうにっき
アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳 早川書房 1991年
アゴタ・クリストフは1935年ハンガリー生まれ。
小説の舞台「小さな町」はアゴタのふるさとハンガリーの田舎町クーセグ。
第2次世界大戦中、ハンガリーはナチスに占領され、ホロコーストも経験する。ソ連によって解放されるが、そのままソ連の統治下に置かれる。
現在のウクライナもそうだが、東欧の国々は独立国家として存在するために非情な苦しみをなめる。
主人公は、第2次大戦から戦後のそんな時代を生きる双子。父親は兵役にとられ、母親は、双子を「小さな町」の実母のもとに疎開させる。
「ぼくら」と一人称で描かれるため、どんな非道や、醜悪なことや、ショッキングなことも、少年の目で淡々と語られる。
きれいごとではない生き抜く力とは何かを実感させられる。
『ふたりの証拠』1991年、『第三の嘘』1992年との三部作。
コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳 早川書房 2020年
アメリカ合衆国南部に住む黒人奴隷が、奴隷状態から抜け出すために北部へ脱出しようとする。地下鉄道は、そのための手助けをする人たちで作られた組織のこと。ただし、この小説では、たんなる組織ではなく、実際に地下にトンネルを掘って作られた鉄道が出てくる。鉄道を乗り継いで逃げる娘コーラの凄惨な物語。
奴隷の生活のひどさ、差別をする人間の残虐さがこれでもかというほどリアルに描かれる。生き延びようとするコーラの心のありようが、普通の娘の心と少しも変わらないゆえに、より残酷にも感じられるし、同時に希望も感じられる。
これは、かつてのアメリカ合衆国を舞台にしているけれど、現代のことでもあり、世界中どこでも起こってきた、起こりつつあることでもある。
ピップ・ウイリアムズ著 最所篤子訳 小学館 2022年
主人公エズメ・ニコルが6歳のころ、辞書編纂者の父親の足もとで周りの編纂者の仕事を見ているところから物語は始まる。
オックスフォード英語大辞典の編纂に関わった実在の人たちを周りに配し、作者の創作である少女エズメの人生を描いている。
背景には、イギリスの女性参政権獲得の運動と、第一次世界大戦の勃発がある。
エズメは、オックスフォード英語大辞典の編纂の過程をつぶさに見ていて、それが男性のことばを集めたもので、出典は書籍からでなければならないことに、違和感を抱く。
そして、自分なりにことばを集め始める。それは、女性のことばであり、書かれたものではなく話されたことばであり、労働者や底辺に生きる人々のことばだった。
エズメのことば集めと成長を縦糸に、エズメを愛した人やエズメが愛した人との心の交わりと、エズメが愛する人を失っていく悲哀とが、読む者の心を潤す。
ハッピーエンドではないが、ひとりの人間の生涯が歴史の一コマとなりうることに、励まされる。
筆者ピップ・ウイリアムズは、オーストラリア出身の小説家。
小池真理子著 新潮社 2021年
筆力あり。ぐんぐん引き込まれる。
が、しんどい。
心が重くなる。二度と読みたくない。